TECHNOLOGY STORY

なぜ、約30時間で
熟成できるのか。

「The Factory Spirits」のアメリカンウイスキーは、樽の中で数年かけて起こる変化を、わずか約30時間で引き出す技術から生まれました。「時短」と聞くと、本来必要な手間を省いたコスト優先の代替品のように思われることがありますが、実際にはどのような技術なのでしょうか。開発元アメリカ・BarrelRM社の技術と、そこに至るまでの想いをご紹介します。

THE QUESTION

「時短」は、品質を犠牲にした近道なのか。

樽で何年もかけて熟成させるウイスキーづくりには、樽材の選定から貯蔵環境の管理、ブレンドの技まで、何世代にもわたって受け継がれてきた職人の技術と経験が息づいています。その丁寧な時間の積み重ねこそが、伝統的なウイスキーの価値であり、私たちもその価値を大切に思っています。

一方で、樽での熟成には数年から数十年という長い時間がかかるため、実際に商品として世に出るときには、何年も先の市場の需要をあらかじめ見通して仕込んでおく必要があります。近年のようにハイボール人気などで需要が急に高まっても、熟成中の原酒をすぐに市場へ出すことはできません。長期間の貯蔵には保管コストがかかり、樽を通じてアルコールの一部が自然に蒸発してしまう「天使の分け前」と呼ばれるロスも避けられません。

こうした課題と向き合う中で生まれたのが、The Factory Spiritsの「約30時間」という熟成技術です。樽の中で自然の力に任せていた工程を、精密な工学的制御に置き換えることで、需要の変化に応じてより機動的に供給できるようにする、という発想です。

ただ、それは伝統的な製法に取って代わろうとするものではありません。では、実際にはどのような技術なのでしょうか。開発元BarrelRM社が公開している情報をもとに見ていきます。

FACT — 技術のしくみ

HOW IT WORKS

樽の代わりに、精密制御されたタンクで。

木の樽を使わず、チップと環境の精密制御で熟成する

The Factory Spiritsは、伝統的な木製の樽を使いません。代わりに、焦がしたホワイトオークのチップを熟成用タンクに浸し、タンク内の温度・湿度・酸素濃度などを細かく調整しながら、約30時間かけて熟成させます。この環境調整の手順(レシピ)はあらかじめプログラムされ、全自動で行われ、遠隔操作も可能とされています。

出典:佐藤恵菜「ウイスキー業界に衝撃!30時間で熟成が完了する「近未来のバーボン」誕生秘話」@DIME アットダイム(2025.03.28)

01

Refine(精製)

雑味のもとになる成分(コンジナー)を減らし、よりクリーンで滑らかな原酒に仕上げます。

02

Infuse(浸出)

本物のオーク材から、香味・色・香りを引き出します。

03

Activate(活性化)

酸素を取り込み、味わいに深みと滑らかさをもたらします。

04

Combine(結合)

複雑な反応を促し、新たな香りの広がりを生み出します。

出典:BarrelRM社公式サイト(barrelrm.com/process)に掲載の4段階の工程説明(Refine / Infuse / Activate / Combine)を要約

開発元が示す、ひとつの目安:「7年分の変化」

開発元のBarrelRM社は、伝統的な樽で7年間熟成させた場合との比較シミュレーションを行っており、これによると約30時間の工程で、樽の中で7年かけて起こるのと同じ環境変化を再現しているとしています。なお、開発者自身も「30時間」を熟成と呼ぶかどうかは意見が分かれるだろうという認識を示しており、この点もあわせて申し添えます。

出典:同上(@DIME アットダイム、2025.03.28)

FACT — 数字で見る違い

BY THE NUMBERS

伝統的な7年熟成との比較

BarrelRM社が、伝統的な樽熟成でバーボンを7年間仕上げた場合と、同社の技術で同等の変化を再現した場合とをシミュレーションしたデータです。伝統的な熟成でかかる量を100%とした場合の、本技術での使用量を示しています。

13.7%電力消費量
13.6%CO₂排出量
13.2%原酒の使用量
1.1%樽材(ホワイトオーク)の使用量

出典:BarrelRM社によるシミュレーションデータ/佐藤恵菜「ウイスキー業界に衝撃!30時間で熟成が完了する「近未来のバーボン」誕生秘話」@DIME アットダイム(2025.03.28)

「天使の分け前」による目減りがない

伝統的な樽熟成では、木の樽を通じてアルコールの一部が自然に蒸発します。この蒸発によるロスは「天使の分け前(エンジェルズシェア)」と呼ばれ、BarrelRM社は自社サイトで、伝統的な熟成では熟成年数などに応じて10〜50%の原酒がこうした形で失われるとしています。同社は、樽を使わないこの技術ではこうした蒸発ロスが発生しないとしています。

出典:BarrelRM社公式サイト(barrelrm.com/process)

※上記はいずれもBarrelRM社によるシミュレーション・自社発表の数値であり、当社が独自に検証したものではありません。なお同社は自社の技術全体について、木材使用量91%減・CO₂排出量93%減、所要期間を「年単位から日単位へ」短縮するともうたっています(barrelrm.com)。The Factory Spiritsにおける約30時間という時間は、これよりもさらに短いケースにあたります。

FACT — 裏付けとなる体制と実績

THE TEAM

複数分野の専門家による開発チーム

BarrelRM社は、航空宇宙・自動車工学からIT・事業開発まで、異なる分野の専門家4名によって創業されました。

R&D・オペレーション担当

Sean Kelly, Ph.D.

航空宇宙・自動車分野のエンジニアとして熱力学・試作・不具合解析に従事。技術開発を主導。

技術・事業戦略担当

Allan Evans, Ph.D.

Unusual Machines社CEO。Red Cat社COO、Avegant社共同創業者などを歴任。

サステナビリティ・戦略担当

Mark Palaima

eBay・Sybase・Inkiruなどで長年テクノロジー分野のリーダーを務める。

経営統括担当

Sandy Climan

Entertainment Media Ventures社CEO。事業提携・事業開発を担当。

出典:BarrelRM社公式サイト チームページ(barrelrm.com/team)

147回の試験を重ねた開発実績

BarrelRM社が公開している事例によると、アガベ・スピリッツブランド「Ameragave」との共同開発では、香りや化学的な構造、口当たり、木材由来の風味、後味などを測定しながら147回におよぶ管理された試験を実施し、12か月で商品化にこぎつけたとされています。開発された商品は複数の品評会で受賞し、Ameragave社の創業者は「Barrel RMのおかげで、風味や品質を犠牲にすることなく、無添加のAmeragaveを発売できた」とコメントしています。

出典:BarrelRM社公式サイト「How Barrel RM Helped Ameragave Build an Award-Winning Agave Spirit in Under a Year」

VOICE — 技術者の想い

WHY HE STARTED

「なぜ、何年もかかるのだろう?」

「なぜバーボンをつくるのに何年もかかるのだろう?」
「テクノロジーの力で、もっと短くできないだろうか。」
開発者 ショーン・ケリー氏(BarrelRM社)/@DIME アットダイムの取材記事(2025.03.28)より

ケリー氏はもともと、宇宙航空機や自動車の分野のエンジニアでした。バーボンに特別詳しいマニアだったわけではなく、気軽に飲む一人だったといいます。そんな中でふと浮かんだ疑問をきっかけに研究を始め、開発には5年以上を費やしたと伝えられています。将来については、「テクノロジーの進化によっては、50年熟成相当のバーボンを2日でつくれるようになるかもしれない」とも語っています。

※これらは開発者個人の発言・見通しであり、現時点で実現している技術や当社が保証する将来の性能を示すものではありません。

VOICE — 私たちが取り扱う理由

WHY WE IMPORT IT

「試す価値は十分ある」

「ウイスキー人気の高まりで、バーボンの品薄傾向も続いています。バーボンはいくら需要があっても、すぐに生産できるものではありません。最近はハイボールやカクテルで楽しむ人が増えていますが、それらのベースに2年以上も熟成させたバーボンを使うのはちょっともったいないとも言えるわけです。短期間でできるバーボンがあるなら、それを試す価値は十分あると思います。」
有限会社ヤマダ 酒類販売管理者 山田瑠璃子/@DIME アットダイムの取材記事(2025.03.28)より

※これは当社としての事業上の考え方であり、技術的な検証結果ではありません。

REFERENCE — 他業界に見る、同じ構図

NOT UNIQUE TO WHISKY

技術が時間とコストを変えるのは、ウイスキーだけではない。

「時間をかけていた工程を、技術で置き換える」という発想そのものは、他の産業にも見られます。ウイスキーそのものの話ではありませんが、参考として2つの事例をご紹介します。

自動車:ギガキャスト(テスラ)

テスラは車体前後の骨格部分について、従来は約70点の部品を溶接・締結して組み立てていた工程を、1回の鋳造で一体成形する方式(ギガキャスト)に切り替えました。Model 3ではこの方式により約370点の部品が削減され、組立ロボットも片側だけで約300台減らせたと報告されています。部品点数と接合部が減ることで、強度のばらつきや漏れのリスクにつながる「継ぎ目」も減り、電池パックへの荷重を滑らかに分散できるとされています。工程を省いたのではなく、車体のつくり方そのものを設計し直すことで、コストと複雑さを下げた事例です。

出典:Design News「Tesla's Switch to Giga Press Die Castings for Model 3 Eliminates 370 Parts」

建築:3Dプリンター住宅(ICONほか)

住宅建設で最もコストがかかるのは人の労働力です。3Dプリンターによる建築は、この労働集約的な工程の一部を機械に置き換えることで、建設コストを下げようとする試みです。すべての案件で大幅な低価格化が実現しているわけではなく、従来工法とほぼ同水準の価格にとどまる例も報告されていますが、「時間のかかる手作業を技術で置き換える」という発想自体は共通しています。

出典:Singularity Hub「Can 3D-Printed Homes Be Built for Under $99,000? ICON Wants You to Figure It Out」

The Factory Spiritsの熟成技術も、同じ構図にあります。樽の中で自然にまかせていた時間のかかる工程を、精密な工学的制御に置き換えることで、コストと環境負荷を下げながら、再現性の高い品質を目指す試みです。

IN SUMMARY

「手抜き」ではなく、「工学」という選択。

熟成にかかる時間とコストが短縮されているのは事実です。ただしそれは、必要な工程を飛ばした結果ではありません。樽の中で数年かけて起こる複雑な化学変化を工学的に再現し、精密に制御する技術として、5年以上の開発期間と、147回にわたる管理された試験を経て確立されたものです(いずれも開発元 BarrelRM社の発表による)。仕上がった商品自体も、The Factory version 2.0がTWSC 2026で金賞を受賞するなど、第三者機関による評価を受けています。

スコッチウイスキーには最低3年間の木樽熟成が法律で義務付けられていますが、アメリカンウイスキー(バーボン)にはそうした年数の規定はありません。急速熟成という分野そのものについて、専門誌では「樽の中では何百種類もの化学反応が異なる速度で進んでおり、そのすべてを制御することは気の遠くなるような作業」であり、そこに挑む技術者は「困難な謎を前にして、かえって新たな意欲を持つ」タイプが多いと紹介されています(WHISKY Magazine Japan「熟成を急げ」)。

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